【Zazzle】千字文シリーズを新発売。

千字文シリーズをZazzleで始めました。
書は国立国会図書館デジタルコレクションの西川春洞の書籍からベクター化、再構成して、金色表現素材と黒色素材の背景に配置しました。

https://www.zazzle.com/store/kanji_studiofruitjam/products?cg=196706470818297554

千字文とは

三才図会で描かれた鍾繇像
国立国会図書館デジタルコレクションより

千字文(せんじもん)とは重複しない千の漢字を使い、4字で一小句、8文字で一大句とし125大句で構成される漢詩です。古い時代の中国で漢字の教科書、習字の手本として使われました。

千字文の由来を現代の説とは異なる場合もありますが、詳細な情報がネットにはないので次の2冊の書籍から紹介します。

古いものですので文章には句読点がなかったり、促音は普通の大きさの字で書かれたりしています。
また漢字は旧字体、旧仮名使いです。漢字のほとんどにふりがが付いていましたがそれは省略しました。
また読み難い文字には(赤字)でふりがなを振りました。
書籍はパブリックドメインですので、著作権は切れており、引用における制限はありません。

昔晋の文帝(ぶんてい)が世を治めた時に大夫鍾繇(たいふしょうよう)と云ふ文客が千字を集めて一編の文章を作り之を文帝に献じた所が帝(てい)深く喜ばれて常に座右に備へて背誦(はいしょう)された爾後幾たびかの星霜を経て恭帝(きょうてい)の時に至り不意に宋の文帝の襲撃を受け破れて丹陽に走る途中大雨驟來(たいうしゅうらい)して車駕を濕(うる)ほした時に愛翫する所の千字文も又車中に在つた爲雨水の濕損(しっそん)するところとなつた然るに兵馬(へいば)の間之を修理する遑(いとま)がなく其儘書庫に藏めて置いたのである宋の文帝遂に位を受けて後ち書庫を檢めた所が濕損亂麻(しっそんらんま)の如き千字文を發見し之を舊(旧)に復せんとしたがならぬ故に梁の武帝が之を請い受け此大文章を煙滅さするを憂ひ世に博學を以て聞こえて居る侍郎興嗣(じろうこうし)に命じて其欠を補はしめた興嗣勅を奉じて之を韻語に約し章句を序し二夕(にせき)を費して編成し武帝の親閲に供した興嗣が編纂に苦心焦慮し心血を此編に瀝(そそ)ぎ盡した爲其鬢髪(びんぱつ)は一夜に皆な白くなつたと云ふことである眞に萬世の絶品と云うべしである

此千字文の我國に渡來したのは應神帝(おうじんてい)(第十六代)の御代に王仁(わに)なる者が始めて論語と千字文を献じた是が我朝漢文字の輸入した濫觴(らんしょう)である

千字文講義 附 伊呂波講義
鶴城散史講述
明治42年4月10日発行

国立国会図書館デジタルコレクションより

注)◯背誦:暗誦◯兵馬:戦争◯濕損、濕損亂麻:湿害◯濕ほす:湿らせる◯侍郎:中国の官僚制度の名称の一つ◯煙滅:煙のように跡形も無く消えてなくなること◯親閲:君主が自ら検閲等をすること◯濫觴:物事の始まり。起源

次に昭和に出版されたものから引用します。

千字文に就て

 昔支那の三国時代の魏の國に、鍾繇(しょうよう)(あざな)は元常といふ人があり、楷書の大家として有名である。抱犢山(ほうとくさん)に入つて書を劉勝(りうしょう)といふ人に學び、後に韋誕(いたん)といふ人に蔡邕(さいよう)といふ人の筆法を問ふたが、韋誕は惜しんで與(あた)へなかったので、韋誕が死んでから、人をして其の塚を掘らせて其の筆法を知ることが出來たといふことである。舊說(旧説)によると、其の鍾繇の書いた千字文を晋の武帝が至寶として秘庫に藏めて愛された。處が石勒(せきろく)といふ者が亂を起した時、書籍を車に載せて運んだが、暑雨(ゆうだち)の爲に典籍は皆糜爛(びらん)し、右の千字文も旣に絶えようとした。晋帝は之を大に惜しませ給ひ、時の書家として最も有名な王羲之(おうぎし)をして其の文字を謄寫せしめられた。けれども音韻が調はず、次第に混雑して讀み難いところが多かつた。梁の武帝に至つて、其の臣周興嗣(しゅうこうし)に命じて、其の理を推し、次韻(じいん)せしめられた。これが今の千字文であるといふことである。周興嗣は名を受けて僅か一日の中に右の千字文を以て文を綴つて進(たてま)つた。

それで周興嗣の髭や髪は一晩で眞白になつたと言い傳へられてゐる。

 我が國の應神天皇の十六年に、百濟の王仁(わに)が論語十巻と千字文一巻を貢進(たてま)つたと古事記にあるが、其の年は晋の武帝の大康(たいこう)六年で、梁の武帝よりは二百餘年も前であるから、その千字文といふのは周興嗣の次韻して作つた千字文ではないわけである。その以前にあつた鍾繇の千字文か、それともそれを王羲之が寫した千字文であつたのか、残つてゐないからわからない。一說には昔から千字文は習字の手本として用ひたものであるが、矢張り習字の手本としたものに急就章(きゅうじゅしょう)がある。古事記にはそれを千字文と誤つたものではなかろうかと云つてゐる。これの說はどうも首肯されないことである。

千字文解釋
吉田茂松 著
昭和12年10月20日発行

国立国会図書館デジタルコレクションより

注)◯糜爛:ただれること◯次韻:素を整理し第(順序)良く並べること

千字文いついて詳しくは中国のことばと文化・社会(三)【PDF】

漢詩の解釈

千字文から商品にするため選んだのは、冒頭の句。これしかないというくらいスケールの大きさを感じられる詩です。

天地玄黄(てんち げんこう/ tenchi genkō)
宇宙洪荒(うちゅう こうこう/ uchū kōkō)
天は玄(くろ)く地は黄色。宇宙は果てしなく広い。

日月盈昃(じつげつ えいしょく/ jitsugetsu eishoku)
辰宿列張(しんしゅく れっちょう/ shinsyuku retchō)
日は西に傾き、月は満ち欠けする。星座は並び広がる。

簡単な訳ですが、陰陽五行説や古典を知らなければこの詩の奥深さを知ることができません。
千字文を解釈した書籍がありますので、ご紹介します。圏点は太字に直してあります。

天地玄黃。宇宙洪荒。

天地(あまつち)は玄く黃にして。宇宙は洪(おおい)に荒(ひろ)し。

次にと云ふと、此のとが共に平聲七の韻字である。従つて「詩讚羔羊」に至るまでの五十句、皆此の陽韻である。

以下解釋せば、は九天、は九地などと稱(しょう)する。是れは數取りの満數であるから、の如く高く限りなく重なつてゐるのも、又の如く深く限りなく重なつてゐるのも、共にの字を用ひて、九天、九地と稱する。

(か)く八重、九重に重なれるゆゑ、極めて奥深き眺めである。故にしと形容したのである。〔老子〕開巻第一に、「玄之又玄。衆妙之門。」とある。の意は是と同じ。とは冥なりとて、暗くして先が見えない貌(かたち)。天上は限りなく高くして、幾ら仰ぎ瞻(み)ても、靑冥(あおぐろ)くして見極めがつかない。故に玄しと曰ふ。老子では、此のき中から萬物が出生するから「衆妙之門」と曰ふのである。天地も亦然り。

次には黄なりとは、事實の色は色が多いから、然(?)か言ふ。但しには赤土もあれば黑土もある。然(しか)るに黄と曰ふ所以(ゆえん)は、五色を、五行や方角に配當して、東と春と木は靑色。南と夏ととは赤色。西と秋ととは白色。北と冬ととは黑色。併(しか)し此のと云ふのは靑黑ひ意味。而(しか)して中央の色と、斯く配當するからである。

故に土も土も、總(すべ)て之をと曰つて、地に屬するのである。斯くて「上天下地」を以て、萬物を出生する所の父母、卽(すなわ)根本起源とするのである。是れ亦此の四字を以て、一巻の首に冠せしめたる所以である。

次に宇宙とは、やはり天地の換名(かえな)であるけれども、少し意味を異にする。〔淮南子〕齊俗訓(えなんじ せいぞくくん)に、

往古來今、謂之。 四方上下、謂之

とある。然れば哲學的に稱する所の、無限の空間がにして、無限の時間がである。上は天、下は地。其の天地の間に、縦に三世を貫き、横に十方を兼ぬるを、宇宙と稱すべきである。三世とは、過去、現在、未來。十方とは、四方、四維(ゆい)に上下を加ふ。四維とは、四方の角を謂ふ。斯くて時間にも空間にも、無限に宏く且永久であるから、洪荒と形容したのである。は大なり。も亦果てしなく宏く大なる意味の文字である。荒れて十方に廣がる意味。故に人類、蟲魚(ちゅうぎょ)、山川、草木、所謂(いわゆる)動物、食物、乃至(ないし)礦物等、ありとあらゆる萬物は、皆此の天地間、卽限りなき宇宙間に現出し存在してゐる者であるから、最初に此「二大無限の四字」を以て冠したのである。

日月盈昃。辰宿列張。

 日月(じつげつ)は盈昃(えいしょく)し、辰宿(しんしゅく)は列張(れっちょう)す。

は滿とて、月の新月より滿月に至るを意味し、(ひ)は仄(そく)又は側に通じて、傾くと訓する。卽ち日が東天に昇り始めて、終に又西天に傾き没するを謂ふ。次に辰宿とは星の宿り場と解す。中については、又日月星の稱、宿は星の座とし、日や月や各星の定住せる位置を謂ふ。故に列張と、羅なり張り廣がつて、宇宙間に逼满してしてゐると云ふのである。

千字文詳解
松崎覺本 著
昭和18年1月10日発行

国立国会図書館デジタルコレクションより

平聲七陽:説明が難しいので、漢詩についてはこちらを参照のこと

あわせて読みたい


逼满:迫り来るように満たされていること。

明治・大正期に活躍した書道家・西川春洞

千字文を著している書家は数多くいますが、西川春洞は千字文を調べている内に知ったのですが、篆隷楷行草の5体を書き五筆居士と呼ばれていたそうです。
篆書はパスポート表紙の日本国旅券という文字にも使われている書体です。

https://ja.wikipedia.org/wiki/西川春洞

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